#019 右肩下がりの時代における新しい街づくり
「原っぱ」と「コンテナ」を通して市民の自発性を引き出す
「わいわい!! コンテナ」とは、ドーナツ化現象によって空洞化してしまった佐賀県佐賀市の中心街に、駐車場に芝生を植え、コンテナを設置して図書館をつくったプロジェクト。このユニークなプロジェクトが、どのようなプロセスを経てプロトタイピングされ、実現に至ったのか。「わいわい!! コンテナ」の中心となった建築家西村浩氏に話を伺った。

西村浩
1967年 佐賀県生まれ。株式会社ワークヴィジョンズ代表取締役。
北海道教育大学芸術課程特任教授
東京藝術大学美術学部デザイン科非常勤講師
日本大学理工学部社会交通工学科非常勤講師
お茶の水女子大学生活科学部 人間・環境科学科非常勤講師
設計事務所勤務を経て1999年ワークヴィジョンズ設立。建築・土木・まちづくり等、常に「まち」を視野にいれ、分野を超えてモノづくりに取り組む。主な計画・作品に、大分都心南北軸構想、佐賀市街なか再生計画、岩見沢複合駅舎、鳥羽海辺のプロムナード、長崎水辺の森公園橋梁群など。主な受賞歴に、日本建築学会賞、土木学会デザイン賞、グッドデザイン賞大賞、BCS賞、ブルネル賞、アルカシア建築賞 他多数。
ボトムアップ型プロジェクト
市民参加を取り入れた建築デザインの経験を活かす
市民ベースで活動を展開する考えはどこから生まれたのですか?
以前、仕事で三重県鳥羽市の仕事に関わりまして、「鳥羽海辺のプロムナード(カモメの散歩道)」というものをつくりました。市民からの電話が僕の事務所にかかってきて、そのプロジェクトに参加したのがきっかけです。海沿いにあるプロムナードに、県が勝手に防潮堤を拡張し始めているとのことでした。そうすると、海辺がコンクリートの壁に囲まれてしまうんですね。ですが、鳥羽市は観光の街なので、景観が損なわれるのは大きな損失になります。ホテルの関係者や地元の市民の人達の後押しによって、そのデザインを僕が担当することになりました。市民が自主的に動くと、行政も動くんですね。また、岩見沢のプロジェクトでも同様の体験をしました。
北海道にあるJR岩見沢駅のプロジェクトですね。駅舎の壁面にレンガを積んで、ガラスサッシに古レールを使ったデザインで、グッドデザイン賞を受賞されましたよね?
当時、駅は火事で燃えてしまっていて、プレハブの駅だったんですね。駅前の広場は誰もいなし、周辺の商店街はシャッター閉まって駐車場ばかりでした。これは建築をつくるコンペだったのですが、僕は街の再生プロジェクトとして提案したんですよね。参加者の名前と出身地を刻印するなど、市民の参加性もデザインとして取り込んでいます。すると、駅のリニューアルをきっかけにさまざまなプロジェクトが市民を中心に動いていいきました。もちろん、ケースによっては限界があると思いますが、「市民というのはすごい、やる気出せば街を動かす力になるんだ」ということをそこで学びました。ですので、この「わいわい!! コンテナ」も市民の方々と一緒に動かすものであるべきと考えていました。
右肩下がりの時代
中心街において駐車場が乱立、ドーナツ化現象によって商店街が低迷
まず、佐賀市に行かれてどんなことを感じました?
街について言えば、僕らが子どもの頃は、とても賑わっていたんですよ。ですが、30年ぐらいの年月を経て、「これが街なの!?」と感じてしまうぐらいに中心街が空洞化していました。高度成長期には人口密度が高い状態で街が拡大していったのですが、最近では人口密度が低下し、潰されたビルや撤去された住宅の後に、駐車場が次々とつくられていました。いわば、街が虫食い状態になってしまっているという印象でした。
街の現状を見て、すぐにこうしよう、というアイディアは出てきましたか?
正直言うと、すぐには出てこなかったです。はっきり言えば、みんなわからない。社会の価値観が急激に変わっている時代ですから、当たり前です。いままでは右肩上がりの経済成長が前提で、戦略を立てることが中心でした。ですが、右肩下がりの時代を経験したことのない我々が、今の時代に適した施策を行うことは難しい。私にもわからないですよ。
そんな時代の中で、どのようにヒントを見つけ出すべきですか?
一つ間違いないのは、右肩上がりの時代にやっていたことの延長線で仕事をすると、必ず失敗します。ですので、下がっていく時代に何が起きるのかをシミュレーションしながら、僕はこの街を舞台に仕事をしようと試みました。その中で考えないといけないことは、街の行政や経済に関する仕組み。この仕組みごと変えていかないと上手くいかないですね。
西村さんがお考えになる街づくりの理想とは、どのようなものでしょうか?
先ほど言ったように、ボトムアップ型のプロジェクトになることが大切です。地方の行政は右肩上がりの時代の方法論からなかなか離れることができない。しかし、その変化の鍵となるのは市民の存在なんです。市民がやると言えば、行政や政治が動く可能性が高まります。
市民のニーズが行政や政治家に届けばプロジェクトが展開しやすくなると?
そうです。今は縮小の時代。大事なのは政治的決断です。右肩上がりの時代は決断しなくても、上り調子だから何をやってもみんな喜んでくれる。ですが、右肩下がりの時代というのは、政治的決断で物事動かしていく必要にどうしても迫られます。痛みを伴う制度改革を行わない限り、前には進めませんから。その決断を促す提案を、僕らができるかどうか。トップが喜ぶ提案ばかりをやっていたら、いい街づくりにはつながりません。

地域コネクション
1年間継続して佐賀市に足を運び、地元の人々と交流
そこで、市民参加型の街づくりである「わいわい!! コンテナ」は、どのようなきっかけで始まったプロジェクトだったのですか?
僕は佐賀市の出身なのですが、佐賀の市民の方から電話があったのが一番初めのきっかけです。「街づくりを頑張りたいのでぜひ来てください」と。地元なので行ってみようと考えまして、1年間ぐらい通い続けて地元の方々と飲んでいたんですよ(笑)。すると、どんどん人のつながりが増えてきまして、終いには役所の方ともつきあうようになりました。
1年はかなり長いですね?(笑)
そうですね(笑)。ですが、その期間を通してコネクションが増えたことは間違いないですね。みなさんと気楽に腹を割って話すことができましたし、何よりも信頼関係が生まれたことが大きい。すると、「西村が言うんだったらちょっとやってみようか」とか、「ちょっと嘘くさいけどやってみようか」とか(笑)、そう言っていただけるようになる。その流れで、街をなんとかしたい、特に中心街を活性化したいので、戦略づくりからやって欲しいって言われまして、それがこのプロジェクトの始まりでした。
既存発想のリセット
移動しやすいコンテナを活用し、中心街の空き地に集客施設と原っぱを設計・デザイン
「わいわい!! コンテナ」は、空き地だった土地を原っぱに変えたプロジェクトです。芝生を張って原っぱにするアイディアとはどこから生まれたのですか?
やはり街なかに子ども達がいない、遊んでないと感じたんですよね。道路や駐車場ばかりで、遊ぶところがないわけです。芝生の原っぱがあれば、子ども達もやって来ます。
まずは子どものため、という狙いだったのでしょうか?
お年寄りもいますね。街を見ると、お年寄りの方々が散歩している姿をよく見かけるのですが、途中で休む場所がない、という声を聞きました。長い距離を歩き続けることは難しい。であれば、緑があって休める場所があるということは大切です。また、街にとって、子どもの存在は重要なんですよね。子ども達が遊べるということは、若い夫婦が生活できるということにつながります。彼らが安心して心地よく暮らせる環境を考えると、緑の存在はとても大切。若い人からお年寄りまでが暮らせる環境ができると、街に活気が生まれます。
なぜ公園ではなかったのですか?
キーワードは「原っぱ」ですね。いわゆる、ドラえもんの「原っぱ」です。土管などが置いてあるイメージです(笑)。今の公園は管理されていて、行動に制約も多い。行政主導の空間になります。ですが、昔の「原っぱ」は、土管に入りこんだり、基地を作ったりと、自由なイメージがありますよね。トップダウンで管理されない、自由な「隙間」こそが大切だと僕は感じました。そこに、どのようなコンテンツがあれば人が集まるかを考えて、図書館を置くことを実験してみました。図書館は昔、街なかにあったんですよ。でも今は郊外に出てしまっている状況です。
その図書館がコンテナ内で展開されていますが、コンテナにしようと思われたきっかけは?
動かせるということが大事だなと思ったんですよ。基本的には社会実験ですから。いろんな空き地でコンテナを使っていくということを考えました。また、リースにする、不動産を動産にして扱う、ということがコンテナだと可能です。たとえば、このプロジェクトは行政から援助を受けているのですが、不動産で持ってしまうと、他の場所には移動できない制約が生まれます。不動産ですと条例まで作る必要がありますので、ハードルが非常に高くなり、実験ができなくなりますね。
コンテナの一番初めのアイディアはどこから生まれているのですか?
昔、F1の放送を見ていた時、後ろのバックヤードでメディアセンターをつくっているのを観まして、あの建物もコンテナ的な仕組みでした。簡単に組み立てることができるものなんです。これはいいな、とその時感じました。
コンテナの魅力はどんなところにあるのでしょうか?
移動店舗がいいな、と思っていまして。たとえば、都内の河川敷によく移動店舗があるじゃないですか?街づくりのプロジェクトで、空き地が増えてきた景色を見た時、コンテナは使えるな、と思いました。社会実験として、コンテナの中に図書館があったら絶対に人が集まるよな、と。さらに、コンテナを使ったプロジェクトをリースで展開できれば、行政も借りやすい環境になります。
このプロジェクトはかなり斬新なアイディアがつまったものだと思いますが、考え方やアプローチ方法など、既存の方法から離れるために、どのような姿勢が必要ですか?
知っていることをあえて忘れ、新しいことを発想できるか、にかかってくるのではと思います。知らないふりをすることが大事なんですよね。
ですが、知らないふりをすることは難しいですよね?
確かにそうですが、さまざまな現実についてまず知らないことにする。そして理想を描くんです。そしてこれこそが理想とすべき方向性だと感じた時、何が障害かを見つけ出し、それを変えないといけない。その障害を乗り越えるための戦略を立てることが、これからの時代に求められることです。

自発性を引き出す仕組み
「原っぱ」をつくることによって市民の積極的な活動を引き出し、商店街を活性化
「わいわい!! コンテナ」の立ち上げについてお聞かせください。
佐賀市に通う中で、人と人とのつながりによってプロジェクトが動いていきました。このプロジェクトは行政が手がけたように思われているところもありますが、コンテナは地元の工務店が自費で作っていますからね。工務店がコンテナを作って、行政にリースで貸しています。コピー機と一緒なんですね。すると、行政も借りやすいし、1年間終わったら返せばいい。コンテナだから違う場所にも持って行けます。
市民の方の一番初めの反応はいかがでしたか?
市民のみなさんは心配していましたよ。実はコンテナは中古のものでして、現地に運ばれた時はボロボロの状態。「これ大丈夫?」って言われまして(笑)。ですが、水色にカラーリングしたり、入り口も大きく開けたりすると、意外と快適。「コンテナの中に住めるんじゃない?」なんて言う人まで出てきました(笑)。
コンテナの中身は図書施設が中心ですね。
この実験地域には本屋がない状態でした。コンビニさえも大してない。ですので、海外の雑誌や絵本、老人向けの趣味の本などを準備しました。すると世代を超えて人が訪れてくれました。同時に、人がコンテナに集まり出すと、その周囲の商店街がアイディアを出し始めます。この人達をどうやってお店に引っ張ろうと考え始めるんです。街づくりのポジティブな流れの起点になりました。
運用されて何か問題などありましたか?
予想していなかったことが見えてきますね。夏休みに、子ども達がキャラクターのカード遊びをしにやって来て、静かに本を読みたい人とバッティングする、ということがありました。訪問者ごとのメリットを整理して、雑誌を読むスペース、談話が中心のスペース、あるいは遊ぶためのスペースなどと、エリアを分ける必要がありました。
どのような効果がありましたか?
今までは駐車場ばかりの寂れた風景でした。閉まったシャッターと駐車場。どこに行ってもそのような同じ風景が続きます。しかし、駐車場が緑になると、人々が集まるようになり、周囲のエリアがその原っぱに向かって活性化するのです。周りの建物がリノベーションやコンバージョンを試みるようになる。それがこのプロジェクトの狙いでした。既存のストックを活かしながら、新しい街の仕組みをつくろうとする意欲を市民から引き出すことが目標でした。
あくまでも市民に主体性を持たせることが重要なんですね?
そうです。今までの中心街の居住は、マンションを建てて「住みなさい」、あるいは高齢者住宅と医療モールをセットにしたものをつくって、おじいちゃんおばあちゃんに「住みなさい」、と言っていた状況でした。ですが、そもそも住みたくない街に、箱だけ作って住みなさい、と言う考えがおかしいですよね。そうではなく、緑の環境ができれば、散歩もできるし子育てもできる。すると、「住みたい」という動機が人々の間に生まれる。ですので、テナントしか入っていないビルを、住居向けにコンバージョンしようという発想が起こりますよね。それを促すためのツールが、緑なのです。この緑をきっかけとして、人が集まったり、コンバージョンやリノベーションの動機が自然と起こり、物作りの場が生まれるのです。
今後の展開をお聞かせください。
「わいわい!! コンテナ」を別のところにもう1個作る予定になっています。ひとつの「点」だったのがふたつになることによって、「面」へと広がります。さらにコンテナが点在するようになると、「面」の中を回遊する動機が生まれます。そうしながら緑を増やしていきたいですね。このプロジェクトの意義は、人が集まることによって商店街がどのように自ら発想し、新しい仕組みを生みだすことができるかを実験することでした。駐車場が「原っぱ」になると街が変わると実証できたことは、これからの街づくりに関する変革の一歩だと考えています。

株式会社ワークヴィジョンズ
わいわい!! コンテナ プロジェクト
岩見沢レンガプロジェクト事務局
【取材・文:小島弘光(株式会社エクスライト)/写真:船橋友久(株式会社コパイロツト)】




































